顧問弁護士とは何か?役割や必要性を解説
最近では、会社の規模や業種を問わず、顧問弁護士と契約する会社が増えてきました。一昔前と比べると、セクハラ・パワハラ、残業・メンタルヘルス等の労務問題や、個人情報の管理その他企業コンプライアンス(法令遵守)に対する社会の目が厳しくなり、会社にとって厳格な法令遵守を求める法改正も増えていることもその背景にあると考えられます。
もっとも、弁護士というと、裁判など何かトラブルが発生したときに依頼するイメージがまだまだ強いのではないでしょうか。このため、顧問弁護士が実際にどのような仕事をするのか、具体的によくわからないという会社も多いと思われます。
そこで、顧問弁護士とは何か、会社にとってどのような役割を果たすのかなどを具体的な事例を交えながら説明いたします。
1 顧問弁護士とは
一般的に弁護士といえば、取引先や顧客などとのトラブルが発生したときだけ、単発(スポット)で依頼するというイメージを持たれがちです。確かに、トラブル対応は多くの弁護士が積極的に取り組む業務の一つです。
他方で、顧問弁護士の役割は、トラブル対応に限定されません。そもそも顧問弁護士とは、会社や個人事業主などの事業者が事業を遂行するにあたり発生する法的論点について、継続的に会社からの相談に対応する弁護士です。顧問弁護士との契約は「顧問契約」と呼ばれております。
顧問契約では、毎月決まった顧問料を弁護士に支払う契約になっていることが通常です。会社は、顧問契約が存続している間はいつでも気軽に弁護士に法律相談をすることができます。事務所によっては相談時間等に制限がある事務所もありますが、弊事務所では基本的に無制限とさせていただいております。
例えば、契約書のリーガルチェックや各事業の適法性のチェックなど、もちろん単発で弁護士に依頼することも可能ですが、弊事務所の顧問契約のように、一定量については契約書のリーガルチェックも事業の適法性チェックも顧問料の範囲内で対応できるとなると、格安なうえに、細かな契約書や小さな不安事などについても弁護士に気軽に相談ができ、会社の役員や従業員のリーガルリテラシーが向上し、ひいては大きなリスクを回避しながら、適正、安全な会社経営を実現できるようになります。
また、継続的に弁護士に相談をすることで、弁護士側もその会社の商品やサービス、事業の性質などをよく知ることができ、契約書をチェックする際や様々な質問を受ける際に、その会社にあった適切なアドバイスが可能になります。例えば、紛争を解決したらそれで終わりではなく、二度と同じように紛争が発生しないよう契約書を見直すなど、継続的にご相談をいただくメリットは大きいと考えております。
また、将来的にIPO(新規株式公開・上場)を目指す会社の場合には、法令遵守をはじめとするコンプライアンス体制の構築が非常に重要な課題となります。IPO前の上場審査においてコンプライアンス上の懸念があると、上場を断念せざるを得なくなることがあるためです。
したがって、IPOを視野に入れている会社や事業規模の拡大を目指す会社は特に、トラブルが発生してから弁護士に依頼するのではなく、トラブルの発生を未然に防止するために顧問弁護士と契約することが多いです。
2 顧問弁護士の3つの役割
これまで顧問弁護士と契約をしたことがない会社の場合、実際に顧問弁護士が何をしてくれるのか、イメージがわきにくいと思われます。そこで、顧問弁護士の果たす具体的な役割を説明いたします。
2.1 日常的な法務相談への対応
会社が事業を行う上で、契約交渉や新規事業に関する法的検討、労務管理など、法律に関わる問題は常に発生します。
顧問弁護士と契約していない場合には、「お客さんから高額の損害賠償を請求された」などという大きなトラブルでも発生しない限り、弁護士に相談することには心理的にも時間的にも費用的にもハードルが高いのではないでしょうか。
また、弁護士側も相談を受ける際、既に顧問契約を締結している会社を優先しますし、単発の場合、本人確認をしたり都度契約書を作成したりする必要があります。このため、単発での相談には迅速な対応が難しいことも多く、弁護士のスケジュール等によっては相談を断られることがあるかもしれません。
これに対して、顧問弁護士と契約していれば、まず顧問契約を締結していない会社よりも優先的に相談や依頼が可能になります。また相談料等の心配もないので、簡単な内容であっても気軽に電話やメールなどで相談をすることができます。なお、当方は、お客様がご希望であれば、代表弁護士の携帯番号やLINE等のSNSアカウント、チャットワークのアカウント等を共有し、緊急のご相談や気軽なご質問に対応しております。
また、顧問弁護士側からしても、日頃のお付き合いの中で顧問先の会社の事業内容や経営方針などについて理解できるので、その会社に合わせたきめ細かなリーガルサービスが提供できます。
このように、顧問弁護士と契約することにより日常的に発生する軽微な法律問題についてその都度弁護士に確認できる環境を整えておくことは、将来的に大きなトラブルの発生を回避することにつながります。このようにトラブルを未然に回避することを目的とした弁護士の活用を「予防法務」といいます。
トラブルが発生すると、その対応に多大なコストがかかることが通常です。また、最近はトラブルの内容がSNS等で拡散されるケースも目立っており、会社にとってはレピュテーションリスクも無視できません。
顧問弁護士に日常的に相談できるようにしておくことで、会社としては未然にトラブルを回避できる可能性が高まり、トラブル対応に関するコストを削減することにもつながるのです。
2.2 トラブル発生時の緊急対応
顧問弁護士と契約しておくことは、実際にトラブルが発生してしまったときにも意味を持ちます。
顧問弁護士がいない会社でトラブルが発生すると、対応してくれる弁護士を一から探すことになります。しかし、単発でトラブルの相談をしようとしても普段付き合いがない会社からの相談をあまり積極的に受け付けない弁護士も実は少なくありません。
また、仮に相談を受けてくれる弁護士が見つかったとしても、会社の事業内容や経営者の考え方などを最初から説明しなければならず時間と手間がかかります。また、その説明を受けたとしても、本当にその弁護士が会社のことをすぐに理解できるかどうかは分かりません。
また、トラブル対応は、初動対応が肝心です。弁護士への相談が遅れて対応が先延ばしになると、必要以上に解決に時間がかかったり感情的な対立が深くなったりすることがあります。
このような場合に顧問弁護士がいると、トラブル発生後ただちに相談に乗ってもらえるメリットがあります。
企業法務を扱っている弁護士の場合の多くが、顧問契約のある会社からの相談に優先的に対応するため、顧問弁護士がいれば初動対応が遅れる心配はほとんどありません。
また、顧問契約をしておくことで、弁護士も事前にその会社の事業内容や経営者の考え方を把握できているので、その会社にとっても適切な対応が可能になり、料金としても、単発のご依頼よりも格安の料金で対応ができます。
以上のように、会社でトラブルが発生して緊急の対応が求められる場面でも、顧問弁護士の果たす役割は大きいといえます。
2.3 社内規程の体制の整備など幅広い業務への対応
顧問弁護士には、一般的な法律相談のほかに、社内の管理体制の整備に関わる業務を依頼することもできます。例えば、社内の業務フローの策定や改善、就業規則を含む社内規程の整備、会社が取引で頻繁に利用する契約書のひな型の作成などにも対応しております。
このほか、ベンチャー企業におけるIPO準備においてよく問題となる、会社法等に基づく株主総会や取締役会などの運営や議事録類の整備についても、顧問弁護士に相談することができます。
その他、後述もしますが、社内研修や勉強会の講師の依頼、また他の専門家の紹介の依頼、またビジネスマッチングという点でも、顧問弁護士を利用される会社は少なくありません。
3 顧問弁護士の積極的な活用方法
ここまでみてきたのは、顧問弁護士に一般的に期待されている役割でした。次に、顧問弁護士をより積極的に会社経営に活かす方法をご紹介します。
3.1 経営者が秘密裏に進めたい案件の相談
会社においては、経営者が秘密裏に進めたい経営に関する重要案件があります。例えば、IPOの準備やM&A、事業承継、事業再生などが代表的なものです。このような案件を相談する相手として顧問弁護士は適任です。
なぜなら、弁護士は弁護士法上の守秘義務を負っていますので、相談を受けた内容を第三者はもちろん社員などにも勝手に漏らすことはありません。上で挙げたM&Aや事業再生などは、法的な論点がしばしば発生しますので、早い段階から弁護士に相談しておくことで経営者は安心して経営判断に臨むことができます。
また、顧問弁護士は日頃の会社との付き合いの中で会社の様子をよく理解しております。このため、経営者としては比較的気軽に相談をすることができる相手でもあります。
このほか、事業承継における後継者問題や、親族間のトラブルなど周囲に相談しにくいプライベートな問題を顧問弁護士に相談することもできます。
3.2 社内研修、勉強会の講師を依頼する
昨今は、パワハラやセクハラなどのハラスメント問題やメンタルヘルス、個人情報保護の問題、、業界に特有の法律知識など、一般の社員であっても理解しておくべき法知識が増えています。また、社会の変化が加速しているため、法律の改正も頻繁に行われております。
このため、トラブルを未然に防止する観点から、最新の法律問題について社内でも常に情報を共有しておくことが重要です。効率的に社内で情報共有するために、定期的に研修や勉強会を行う企業が増えております。
もっとも、研修や勉強会の準備は非常に手間がかかります。また、社員が講師を務めるよりも外部の専門家が講師をしたほうが、正しい知識が共有できるだけでなく、社員の間に危機感、緊張感が生まれやすいという効果もあります。
このようなとき、法律の専門家である顧問弁護士に、社内で開催する研修、勉強会などの講師を依頼するという活用方法もあります。
3.3 他の専門家を紹介してもらう
顧問弁護士は、会計士や税理士、社会保険労務士、弁理士、司法書士など信頼できる士業の人脈を持っていることが一般的です。このため、会社内で弁護士以外の専門家に相談したいことが発生した場合に、顧問弁護士に相談して紹介してもらえることもあります。
また、士業等の専門家のみならず、顧問弁護士の人脈を利用して、異業種の会社を紹介してもらい、ビジネスマッチングに活かすという活用方法もあります。
3.4 コンプライアンス経営の実現
現代社会では企業の社会的責任がより重視されるようになってきました。企業がコンプライアンスを軽視する姿勢を見せると、大きなバッシングの対象になることがあります。
会社の経営判断については、基本的に取締役の広範な裁量に委ねられていますが、いわゆる善管注意義務に違反する場合には、取締役は株主等から責任を追求される立場にあります。
明らかな法令違反であればあまり悩みを生じませんが、実際にはグレーゾーンにおいて難しい経営判断をせざるを得ないことが会社では常に発生します。
このように難しい判断を迫られる場面において、会社が顧問弁護士のような外部の専門家からアドバイスを受けたり、意見書等を取得して経営判断をしたのであれば、結果として会社に損害を生じさせる判断であったとしても、取締役の責任が減免される可能性が高くなります。
このように、コンプライアンスに関わる重要な経営課題の決定の際には、顧問弁護士に相談しておくことが経営者を、ひいては会社を守ることにもつながります。
3.5 新規事業の法的検討
事業の拡大を目指す会社にとって避けて通れないのが新規事業の創出です。新規事業に乗り出す場合には、事前に事業の法的リスクや許認可等の要否について調査をする必要があります。
万が一、法的検討を十分に行わずに新規事業を始めると、知らずに法令違反を犯す可能性があります。また、許認可についても実際に申請してみたら取得できなかったということも起こりえます。
会社が新規事業に乗り出した後に法的な問題点が明らかになると最終的に事業から撤退せざるを得ないことなり、会社にとって無駄なコストを支払うことにもなりかねません。
顧問弁護士は、会社から新規事業について相談があった場合、その事業を進めるにあたり法的に問題となる点や会社にとってリスクとなりうる点がないか総合的な調査を行います。
また、許認可の要否や許認可を得られる可能性がどの程度あるか等についても顧問弁護士に調査を依頼することができます。
このように、会社が新規事業を検討する際には、事業の方向性が見えた段階で早めに顧問弁護士に相談しておくことで効率よく事業を進めることが可能となります。
4 顧問弁護士と契約した方が良い企業とは
会社の創業当初で、まず顧問契約が必要な士業といえば、税理士だと思います。税務処理は全ての会社に不可欠な業務であり、ミスが生じた場合のデメリットも大きいからです。
では、弁護士と顧問契約をした方がよい企業とは、どのような企業なのでしょうか。
4.1 契約書の締結が頻繁に生じる企業
会社の創業当初は、契約の相手方が提示してきた契約書をそのまま締結していてもさほどのリスクはないかもしれませんが、取引数が増え、契約書の数が増えてくれば、それだけ紛争が生じる可能性が増え、逆にいえばその分、リスクをヘッジしておく必要性が増えます。
この契約書のリーガルチェックにつき、単発で弁護士に依頼をしても、費用が高いだけでなく、会社の事業内容等についての理解も低いため、適切なリスクヘッジができない場合があります。
ですので、取引数が増え、契約書を締結する頻度が増えてきた会社においては、顧問弁護士と契約をして、会社について理解のある弁護士に適切にチェックしてもらい、さらに、顧問料の範囲内で、契約書のリーガルチェックを依頼することで費用を抑えることができるというメリットがあります。
なお、当方では、基本的には顧問料の範囲内で契約書のリーガルチェックをさせていただいており、作業時間等により別途費用がかからないように対応させていただいております。
4.2 日常の業務から法律問題が発生しうる企業
インターネットやアプリ等で商品やサービスを販売するような会社においては、常に、ネット等における表示、表現の適法性が問題になったり、また顧客からクレームや請求を受けるリスクがあります。
そのような会社においては、常に気軽に相談ができる顧問弁護士の存在が非常に重要になると考えられます。
なお、当方では、ネット等における表示、表現等に関しては、景品表示法や独占禁止法の専門家等を顧問に迎え、専門的な知見を踏まえて、その会社に合わせたアドバイス等をさせていただきます。
4.3 事業拡大を目指すIT・ICT企業
事業拡大を目指すIT・ICT企業にとっては、自社のビジネスモデルを理解した弁護士に気軽にできる顧問弁護士は重要な役割を果たします。IT・ICTビジネスの場合、著作権法など知的財産法のほか、扱っているビジネスに関連する分野の最新の法律など、事業に関わる法律が多岐に渡るという事情もあります。
また、多くのIT・ICT企業は、何ごとにもスピーディな対応が要求され、弁護士に対する相談についても、相談のたびに法律事務所に相談に出向くというスタイルよりも、メールやSNS、チャットなどを利用し、時間や場所を問わずスピーディに相談したいというニーズがあります。当方では、このようなIT・ICT企業のニーズにも柔軟に対応いたします。
4.4 IPOを目指すベンチャー企業、スタートアップ企業
将来的にIPOを目指すベンチャー企業やスタートアップ企業も早い段階で顧問弁護士と契約するとよい会社の一つです。
上場審査では、コンプライアンス体制の審査が重視されております。どれだけ売上があがっていたとしても、事業や社内体制にコンプライアンス面での不備があると判断されれば上場審査を通過することができません。
IPO準備の段階で、コンプライアンス体制に関して問題になるのは、紛争予防や紛争解決の体制が適切に運用されているかという構造の点や、ハラスメントやメンタルヘルス、個人情報に関するリスク対応がどこまでできているか、労務管理は適切にできているか等、多岐に亘りますので、そのあたりを法律の専門家である弁護士に、頻繁に相談できる体制を整える必要があります。
顧問弁護士と契約していれば、日頃の相談の中でコンプライアンス上の問題を確実に処理することができますので、将来IPOを目指しているが社内の管理体制が整備できていないという会社には必須といえます。
5 まとめ
会社においては、利益を追求することが最大の目的であることは間違えないと思いますが、その利益を脅かす可能性のあるリスクは、早い段階で適切に排除していくことが、現代の企業経営では不可欠な対応であると考えられます。
会社が顧問弁護士と契約することで、単発の依頼よりも格安な料金で、継続的に弁護士に相談をし、その弁護士に会社の事業内容等を理解してもらい、適切なリスクヘッジを実現することが可能になります。
顧問弁護士は、会社のビジネスを理解し、会社の事業をサポートする立場です。このため、弁護士であれば誰でも良いというわけではありません。自社の行うビジネス分野を理解してくれ、また日常的な相談がしやすい相性の合う弁護士と顧問契約を締結されることをオススメいたします。